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アラビア語メディアから見るムバラク氏辞任

お元気ですか?
桐鳳柳雨(とうほうりゅうう)です。


エジプトのムバラク大統領の辞任。
「エジプト革命」と呼ぶメディアもあるようです。

チュニジアの、いわゆる「ジャスミン革命」に次ぐ民衆革命といわれておりますが、共通するのはフェイスブックやツイッター、ケータイなどによる「インターネットの力」ということのようです。

こうした動きを賞賛する声もあるようですが、熟慮されることもなく「勢い」「雰囲気」「盛り上がり」「流れ」といったことによって、世の中の大勢が一気に変化してしまう...。

或いは、過激な行動に結びついてしまう...。

これって、とても怖いことのようにも思えます。

ことがスピーディに良い方向に進むというのならば結構なことですが、民衆の判断や感性がいつも正しいとは限らない。

今回も、エジプトの方々は「自由」「解放」と歓喜の声をあげているようですが、ムバラク氏退陣後のこともよく考えないまま、ただ「辞めろ」となってしまった状況を、個人的に危惧しています。


トマス・ペインの言葉に、
『あまり安価で手に入れたものは軽く扱われる。自由のように神々しいものが高価でなかったら、実におかしいではないか。』
というものがあります。

今回の、エジプト革命。
騒動の発端から大統領辞任までを見ると、早く、そしてあっけなかったという印象を受けます。

これまでの長きにわたった強権政治や犠牲者のことを思うと決して「安価」に獲得した自由とは言えないのかもしれませんが、退陣劇自体のあっけなさがとても気になるのです。


ところで、エジプトの古代遺産が破壊されているとも聞きます。

以前、私がエジプトを旅行した際、ピラミッドやアブシンベル神殿などを観て、
「人類としてこの世に生まれてきて、これらを観ずに死んでゆくとしたら、何ともったいないことだろう」
と思ったものでした。

一部のエジプト国民にとっては、そうした遺産さえ、抑圧・弾圧の象徴ということになってしまうのでしょうか。


さて、この件について、国内主要紙は以下のような社説を掲載しています。

朝日「エジプト革命 自由と民主主義の浸透を」
産経「ムバラク辞任 民主改革の平和的履行を」
東京「週のはじめに考える 民衆革命が見据える壁」
日経「エジプト国民が覆した世界の独裁の常識」
毎日「エジプト革命 変わるアラブの模範に」
読売「ムバラク辞任 文民政権への移行を速やかに」


それでは、「革命の連鎖」もささやかれる国々と密接に関係しているアラビアのメディアは、この件をどう見ているのでしょうか。

イギリスで発行されているアラビア語紙「クドゥス・アラビー」と、レバノンの新聞「アル・ナハール」の、それぞれ11日付のコラムを見てみます。


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*「クドゥス・アラビー」『偉大なエジプト国民に感謝を』のコラム

『スライマーン少将がムバーラク「元」大統領の辞任決定とエジプト軍最高評議会の権限掌握を宣言した。これまでに聞いた最高のスピーチだった。』

『そして、副大統領への権限移譲を告げた一昨日(9日)の大統領による最後のスピーチは最悪だった。』

『12ワードに満たない前者は、世界中のアラブ3億5千万人と15億のムスリムを狂喜させた。独裁者が失脚し民主的変革が始まるこの歴史的瞬間を皆待っていたのだ。』

『ムバーラク大統領は望んでいたやり方では退陣を果たさなかった。』

『中東域内の他の独裁者たちが大統領に対する多額の金銭的援助を申し出、同時に米政権が支援を停止すると、革命勢力の前に任期終了までの留任を主張することはなくなった。』

『大統領の最後のスピーチは欺瞞に満ち、何が起きているのか理解できなくなった硬化した心境を露呈していた。もちろん、国民の要請を正しく受け止めることもできない。』

『もしわたしがスピーチ草稿起案者なら、エジプト国民に謝罪し、腰を低くして許しを求めるよう大統領に進言しただろう。すい臓がんに侵され余命いくばくもなく、最後の日々を祖国で過ごしたいのだと主張するようアドバイスする。』

『大統領が人生に別れを告げる前にエジプト国民に別れの挨拶をしてくれればいいと思っていた。国民の汗から絞り取った億単位の資産を全て寄付し、エジプトの債務返済や、病院・学校の建設、雇用を生み出す投資計画などに使ってくれと言い残して。』

『しかし彼はそれをしなかった。つまりアッラーが彼に屈辱的でみじめな最後を望まれたのだ。』

『大統領は盲目となり洞察力を失い、「彼らは策謀したが、アッラーもまた計略をめぐらせていた。本当にアッラーは最も優れた計略者であられる」[戦利品章:30]というアッラーの真実も見えなくなった。』

『エジプト国民は奇跡を起こした。第3世界で最も強圧的な抑圧機構に対し一歩も引かぬ決意で対峙し、独裁政権を放逐した。』

『ムバーラク政権崩壊は、ひとつの段階の完全な終焉である。穏健派枢軸の崩壊ともいう。それは、キャンプデービッド、ならびにアラブ・ムスリムにとって屈辱的なあらゆるその補遺の撤廃を意味する。』

『それはまた、アラブ政権を屈服させ、和平を乞う真似をさせパレスチナについて譲歩させてきたイスラエルの傲慢にも終わりを告げる。』

『この恩寵ともいうべき国民革命は、エジプトを自身の元へ取り戻し、同時に全アラブの元へも回帰させた。域内勢力均衡の中で基本的役割を演じる主導的な国家として。』

『そして、アラブ・イスラーム共同体の尊厳を回復し、諸国民の共同体の中に場所を得ようとするアラブの大志にも新たな段階が訪れる。』

『1952年の7月革命後に起きたように。軍が主導した7月革命は、国民に支持されて封建的制度から国民を解放した。その返礼とでもいうように、1月25日革命は国民が蜂起し軍がそれを守った。』

『イスラエル侵攻が起きるたび戦い抜いてきたエジプト国軍が、域内の戦略的均衡の実現を要請し、アラブ・イスラーム共同体の大義を防衛し、米イスラエルの企てを擁護してきた独裁政権との戦いでアラブ国民を支援している。』

『人々は、改革で手をうったり自制したりすべきではない。独裁政権は改革で正されるものではなく、廃止する以外に道はない。』

『国民に不正をなし自由と資産を奪ったものが政権にいるべきではない。国民の手で法廷へ送られ、彼らの苦しみの対価を清算すべきである。』

『独裁放逐に祝辞を降らす人々がたがいに囁き合うのは、エジプトの兄弟たちから革命の旗を受け取るのは、何処の国民だろうかということだ。若者たちの前に降伏する3番目のアラブ独裁君主は誰だろうか。』

『エジプト革命のはじめから、国民の意思が最強のものだと我々は述べてきた。そして若者たちは音を上げなかった。彼らは正当な権利の要求者であり、あらゆる権限の源であるからだ。』

『したがってその勝利は我々にとって意外ではない。「委員会」と称する人々や日和見主義者、ムバーラク後を恐れるアラブ政権などがエジプト国民に策謀をめぐらすのを見て、心配はしていたが。』

『偉大なるエジプト国民、タハリールと全エジプトの広場の若者たちを育んだ清浄なエジプトの母たち、国民の大義の側にたち虚言とごまかしを拒絶したエジプトのジャーナリストたち。』

『我々の尊厳を回復し、リーダーシップに満ちた気高く愛しいエジプトを取り戻してくれたあなたがた皆に感謝してやまない。』


*「アル・ナハール」『エジプト情勢の波及を恐れるアラブ諸国体制』のコラム

『エジプトの革命に欠けているものが三つある。「パレスチナ」と「宗教的傾向」と「アラブの統一」である。』

『それは恥ずべきことではない。エジプトで掲げられたスローガンは根本的な変革の道を拓くものである。』

『その変革が達成されるとき、アラブ諸国、周辺地域、イスラム世界に中心的な位置を占める国家としてのエジプトの進むべき方向性が明らかになるだろう。』

『しかしながらアラブ人の一部では、スエズ運河国有化の時代の遺物や、掛け声だけのアラブ統一を叫び、イスラエルに拳を振り上げて威嚇していた頃の感覚を未だに捨て切れない連中が声を張り上げて、今回の革命はシオニズムと対決する理念の不在に起因すると主張している。』

『またテヘランでは「イスラーム的な中東」の誕生を予言する声が上がっている。そのようなものを予見しているのは、イラン革命の最高指導者たるハメネイ師くらいなのだが。』

『エジプトやチュニジアの国民の怒りが物語っているのは、パレスチナ解放という口実の下に自由を制限する時代はもう終わった、ということなのだ。』

『そして、戦争が起こる気配もなく、多少の込み入った事情で遅れている和議が秘かに待望されている以上、「戦場の雄叫び」をかき消して叫ばれてもよい言葉が存在する、ということなのだ。』

『アラブの全ての民衆が沈黙や叫びを通して語っているのは、「パレスチナ解放の後に自由と、民主主義と、尊厳ある暮らしが実現される」という約束が、もはや忍耐の限界に達した人々にとっては、行動の意思なき者の約束に過ぎないことが明らかになったということだ。』

『さもなければ何故、イスラエルとの合意が公然あるいは非公然に締結され、一部の者に到っては堂々とそれに向けて奔走しているのか?』

『1950年代初めには、「統一と自由と社会主義」なる大衆の夢を実現するというスローガンの下に、軍事クーデタが繰り返された。』

『統治体制や社会構造をめぐる王制との対決を標榜する共和主義体制が生まれたが、やがてそれは実質的には、大統領が領土とそこに存在する全ての物を所有する永遠の独裁体制へと変貌した。』

『大統領には、生命ある限り自分自身の後継者として再任され続ける権利が与えられ、その論理は21世紀に入ると、一族による世襲体制の基盤をなすに到った。』

『まさにそのことによって、エジプト国民はついに堪忍袋の緒を切らしたのである。』

『エジプトでの出来事に関して確かなことは、エジプトの戦略的な位置とその役割があらためて確認されたということである。』

『エジプトで起きる出来事は、エジプトを取り巻くアラブ世界に影響を及ぼすということだ。さもなければ、アラブ諸国体制の一部で国民に対する尊大で不遜な態度が萎縮し始めているのはどういう訳か?』

『イエメンでは大統領が早々と再任を求めるつもりはない等といった譲歩の意向を表明し、イラク首相は自らの給与を半額削減するとともに、次期の内閣で首班を務める意図が一切ないことを明らかにした。』

『その他にも多数の事例があり、エジプトの事態が伝染してくる前に機先を制するべく、反政府勢力との対話を開始せざるを得なくなっている。』

『エジプト情勢が伝染してくる可能性ゆえにその他のアラブ諸国体制は、アラブ諸国民の感情や伝統や社会的特性や将来の展望における一体性を標榜してきた言説を否定して、「それぞれの独自性をもったアラブ諸社会」なる理論を展開し始めている。』

『そうすれば、一つの駒が倒れれば他の駒も次々に倒れるというドミノ理論は通用するまいというわけだ。しかしこの伝染病は、治療を受けつける類のものではなさそうだ。』


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13日付のイギリス「サンデー・テレグラフ」紙によると、『18日間続いた抗議デモの間に一族の資産を海外の口座に移していた疑いがある』そうで、その額はなんと、『最大400億ポンド(約5兆3400億円)とも言われる』そうです。

また、スイス政府は既にムバラク氏の資産凍結を発表しているそうですが、
『ムバラク一族は資産保全のために緊急会議を開き、意向を受けたアドバイザーが既に金を動かしている。チューリヒに資産を預けていたとしても、もう(ほかの場所に)移された後だろう』とのこと。

その資金の移動先は明らかではありませんが、友好関係のある湾岸諸国が取りざたされているのだとか。

『すい臓がんに侵され余命いくばくも』ないムバラク氏が、5兆3400億円ものおカネを、いったいどうするつもりだったんでしょう。

どこぞの国のように、選挙に巨額な資金が必要になるとも思えません。
(いや、もっとかかるのかな?)

人間の欲というものには、際限がないのでしょうか。


「クドゥス・アラビー」紙のコラムに、

『もしわたしが(ムバラク大統領最後の:編者注)スピーチ草稿起案者なら、エジプト国民に謝罪し、腰を低くして許しを求めるよう大統領に進言しただろう。すい臓がんに侵され余命いくばくもなく、最後の日々を祖国で過ごしたいのだと主張するようアドバイスする』

『大統領が人生に別れを告げる前にエジプト国民に別れの挨拶をしてくれればいいと思っていた。国民の汗から絞り取った億単位の資産を全て寄付し、エジプトの債務返済や、病院・学校の建設、雇用を生み出す投資計画などに使ってくれと言い残して』

との一節があります。

理想論でしょうが、私もそう思います。


それでは、また。
あなたに素敵なことがいっぱいありますよう...。


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