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旅券返納命令は人生の否定か?


2015年2月12日(木)14時現在の各紙サイトより


国内主要紙一面トップ記事、及び社説・主張


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【朝日新聞】
「朝刊一面トップ」
『中国、原発大国へシフト 発電能力5年で3倍計画』
「社説」
『人質事件検証 歴史的視点が必要だ』
『コメの輸入 関税の実態を明らかに』

【産経新聞】
「朝刊一面トップ」
『米地上部隊 限定派遣へ 大統領提出 対「イスラム国」決議案』
「主張」
『ボコ・ハラム 第2の「イスラム国」防げ』
『問題教員 使命感強め信頼の回復を』

【東京新聞】
「朝刊一面トップ」
『舛添カラー都政1年』
「社説」
『原発比率 温暖化を口実にするな』
『辺野古沖調査 県民への乱暴許せない』

【日経新聞】
「朝刊一面トップ」
『トヨタ、新興国車を刷新 1000億円投資』
「社説」
『企業は新しい成長の基盤をより強固に』
『病院再編に有効な仕組みを』

【毎日新聞】
「朝刊一面トップ」
『製造業 国内回帰 円安で逆輸入採算悪化』
「社説」
『道徳の指導要領 一律の尺度は無理だ』
『水俣条約の批准 脱水銀社会への第一歩に』

【読売新聞】
「朝刊一面トップ」
『対「イスラム国」 米、地上作戦可能に...議会に提示 3年限定決議案』
「社説」
『外国人介護職 技能実習制度の活用は疑問だ』
『G20共同声明 成長回復の具体策が問われる』


きょうの一言

シリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンに対し、外務省が旅券の返納
を命じた件。

ここ数日、社説・主張を掲載している各紙から抜粋してみます。


【10日付「東京新聞」『旅券返納 渡航の自由どう考える』


『目的地は過激派「イスラム国」の支配地域ではない。憲法が保障する「渡航
の自由」は、十分に尊重されねばならない。』

『渡航阻止の法的根拠は旅券法一九条の定めだ。「旅券の名義人の生命、身体
又(また)は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる
場合」については、旅券の返納を命じられるのだ。もちろん、この規定による
返納は初めての出来事だ。』

『シリア全土は外務省が指定する最も危険度が高い「退避勧告」の対象地域で
もある。勧告に強制力はないため、今回の旅券返納の措置を取ったのだろう。』

『確かにジャーナリストの後藤健二さんらが人質事件に巻き込まれたばかりだ。
国民を守ろうとする政府の姿勢に対し、一定の国民の理解は得られるかもしれ
ない。』

『しかし、ジャーナリズムの役割は、人々の目となり耳となって、注目すべき
事象を取材し、伝えることである。仮に危険と隣り合わせであっても、個人の
判断やメディア側の判断でその地に足を踏み入れてきた。ベトナム戦争やイラク
戦争などのときもそうだ。』

『そこに政府の意向が介在すれば、闊達(かったつ)たるべきジャーナリズム
の精神は著しく毀損(きそん)される。』

『憲法二二条は「居住、移転の自由」を保障し、渡航の自由を認めている。
二一条は表現の自由を定める。報道・取材の自由も担保されねばならない。
それが萎縮すれば、かえって民主主義の養分が不足する。政府の言い分に安易
に寄り添うわけにはいかない。』


【10日付「毎日新聞」『旅券返納命令 前例にしてはならない』

『民主主義社会には報道の自由も不可欠であり、それを担保するのが取材活動
である。』

『他方でシリアは、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)
がまだら状に支配している。カメラマンはシリア北部に入り、ISの支配下に
ない難民キャンプなどを取材するつもりだったというが、リスクを完全に遮断
できるとは思えない。』

『ISが日本人2人の残虐な殺害映像を流し、日本人はどこにいてもテロの
対象になると脅したばかりである。』

『もしもISに拘束された場合、本人の命を危険にさらすばかりか、日本の
外交政策が制約を受ける。先の人質事件ではヨルダン政府も巻き込まれ、テロ
の悪影響が国際社会に広がることが明確になった。』

『カメラマンのシリア入国計画は、人質事件が無残な結末を迎えた後に一部
メディアが報じた。時期が事件と近接していることや、もし新たなテロが発生
した場合の政治的影響の大きさを考えれば、入国計画を把握した外務省などが
当人に渡航中止を求めるのはやむを得ないことだ。』

『残念なのはその手段である。』

『過去に旅券の返納命令が出されていないというのは、その重大さの裏返しで
あろう。旅券がなければ所持者の海外渡航は事実上、不可能になる。いかに
緊急性があったにしても、憲法上の権利に対する強制的な制限を避けるべく、
別の方法を最後まで追求してほしかった。』

『外務省はこれまで海外の危険度に応じて渡航自粛の要請や退避勧告を行って
きた。与党内では今回のようなケースに対応するために、より実効性のある
措置を求める意見が出ている。』

『しかし、それでは「邦人保護」の名の下に政府が国民生活により広く介入
することになり、間接的なメディア規制にもつながる。
政府は抑制的に対応し、今回の措置を例外にとどめるべきだ。』


【11日付「産経新聞」『旅券返納命令 国民を守る判断は妥当だ』

『シリア国内は混沌(こんとん)としており、安全地帯を見極めることは難しい。』

『邦人保護は国の責務だ。渡航先の危険が明らかである以上、法律に基づき
国が旅券返納命令を出したことは妥当だろう。感情的な自己責任論に依拠する
ことなく、国が国民を守る意思を示したものと受け止めたい。』

『憲法22条は海外渡航の自由を認めているが、旅券法による返納命令は、
この例外を定めたものと解釈されるべきだろう。憲法21条による「言論の
自由」についても同様のことがいえる。』

『残虐な殺害映像が流された後藤さんはベテランのジャーナリストだった。
紛争地域での取材に伴う危険を誰よりも知っていたはずだが、外務省による
再三の渡航中止要請を振り切ってシリア入りし、イスラム国に拘束された。』

『返納命令のフリーカメラマンにも、外務省は渡航の自粛要請を繰り返していた。
相手はテロ集団である。計り知れない危険を前に、今回の措置はやむを得な
かった。』

『ただし、これを前例に同種の命令が乱用されるようなことがあれば、強く
批判する。メディア規制のため、恣意(しい)的に運用することは許されない。』

『公に資するため、そこがどうしても必要な現場であると判断すれば、政府
などの意向に反して取材に赴くケースはあり得る。』

『いたずらに「報道の自由」を振りかざして社会を混乱に陥らせることは厳に
慎まなくてはならないが、一方で本当にこれを守るべきときは、闘う。それは
報道に携わる者の矜持(きょうじ)でもある。』


【11日付「読売新聞」『旅券返納命令 シリアの危険考えれば妥当だ』

『残虐な犯罪行為を繰り返す過激派組織「イスラム国」が跋扈(ばっこ)する
シリアの危険性を冷静に直視することが重要である。』

『外務省は、今回の返納をあくまで「例外的な措置」と位置づける。菅氏
(官房長官:編者注)も、今後の対応について「個別の判断」としている。』

『カメラマンは「渡航、報道、取材の自由が断ち切られた」と不満を示し、
法的措置も検討しているという。これはおかしい。』

『言うまでもなく、憲法が保障している渡航や報道の自由は、最大限尊重される
べきだ。しかし、イスラム国は、邦人の人質2人を冷酷に殺害したうえ、今後
も日本人をテロの標的にする、と公言したばかりである。』

『この状況の下で、外務省が、渡航を中止するよう説得を重ねたうえ、本人が
応じないため、旅券を返納させたのは妥当だ。
海外での邦人保護は、政府の重要な責務であり、他に有効な手段がないからで
ある。』

『シリアは今、現地ガイドや仲介者が外国人の誘拐に頻繁に加担するような
治安情勢にある。一民間人が自らの安全を確保できると考えていたら、認識が
甘く、無謀だと言わざるを得ない。』

『仮に日本人が再び拘束された場合、様々な要求が日本政府に突きつけられよう。
事件対応に膨大な人員やコストを要するうえ、日本の外交政策が制約され、
ヨルダンなど関係国にも悪影響が及ぶ。それは先の事件で明らかだ。』

『イスラム国にとって、日本人人質の利用価値が高まっている。本人一人の
「自己責任」では済まされない展開が想定されることを、きちんと自覚せねば
なるまい。』


命令に反対とするのが東京紙、賛成とするのが読売紙、ジャーナリズムの自由
は守られるべきという点では一致するものの基本的には反対とするのが毎日紙、
賛成とするのが産経紙、というところでしょうか。

総合すると、
「報道や渡航の自由は守られるべきだが、今はタイミングが悪すぎるので渡航
すべきではない。そのための、あくまで今回のみの例外的かつ限定的な返納命令
であるべき」
と考えるのが妥当かと思います。

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